水無月のつれづれ日記

アラサーOLの関心ごと

漫画「秘密-トップ・シークレット-」薪さん絶対至上主義的感想

清水玲子先生の「秘密」を読みました。
以下本編最終巻までの激しいネタバレを含む感想です。

 

 

 

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いやぁ、凄い作品。
設定が面白くてミステリーとして良くできているし、物語全体としてもまとまっていて伏線回収もばっちり。
絵もきれいで登場人物も魅力的。ストーリーはシリアスだけどふわっと和む場面もあって。
凄いわほんと。

 

◎大統領暗殺事件◎
まず最初の大統領暗殺事件が圧巻。
これは本編の主人公達は誰も出てこないプロローグだけど一番印象に残った事件かも。
MRI捜査がどんなものかという説明がありつつ、他人の脳を見て「秘密」を暴くことの罪深さを考えさせる・・・。
同性愛や近親相姦という、小説や漫画ではありふれたテーマだけど描き方が凄い。
ケビンの「それくらい愛している」はこの漫画屈指の名場面じゃないかな。
他人に覗かれるくらいなら一生会わ

ない、絶対に侵されたくない聖域にしてしまうくらい愛した人が実の母親だなんて本当に切ない。
ただ「見ている」だけのプラトニックな愛だけど、余計にゾクゾクするような背徳感が・・・。
旅行に行く、すぐに帰ってくると嘘をついて姿を消すラストも切ないなぁ。お母さんも息子の気持ちに薄々気づいてるよねこれ。

大統領とか特別な存在じゃなくても誰にだって侵されたくない秘密はあるんだよね。

 

◎物語本編と薪さんについて◎
そして本編。近未来日本。

貝沼事件、めっちゃ怖かったです。
グロいのはある程度大丈夫なんだけどホラーが怖くて怖くて。幻覚の場面が怖すぎた。
トイレの天井のところとかトラウマものじゃないですか?お風呂とかトイレとか、カーテン開ける時とかにホラーシーンを思い出してしまって一人で震えてます。鏡も背後が気になってあんまり見れないし。

序盤は大統領暗殺事件の余韻と薪さんの美しさだけど糧に読み進めてました。

そう、薪さん。
萌えの塊と言っても過言ではない美しき警視正
美形・天才・ツンデレという超絶ハイスペックエリート。
↑ふとイタKissの入江君を思い出した。好き。

名前が「剛」っていう違和感が最後まで消えなかった。つよしってイメージじゃなくない?

主人公はこの人だと思うんだけど、無口で秘密主義なので代わりに部下の青木の目線で話が進んでいきます。

薪さんモノローグですら無口だし。薪さん目線で話が進んでいったらと思うと今の何倍も暗い話になりそうですね。恐ろしい。

 貝沼事件の話を読み終わったとき、薪さんの背負っている十字架の大きさにずーーーんと気持ちが重くなりました。
何の罪もない若者達が大勢殺されて、しかもそれが自分への「ぷれぜんと」だなんて。
一見クールなようで実は共感性が高すぎる薪さんは、自分とは直接関係がない事件でも被害者やその家族を想って心を痛めて苦しんでしまうのに、自分に印象付けるためだけに無関係の少年が殺されてしまうなんてどれだけ苦しんだんだろう。警察官として貝沼の異常性に気付けなかった自責の念もあると思う
しかもその記憶がきっかけて自分の部下達が死に、精神を病み、一番大切に思っている親友を手にかけなくてはいけなくなるなんて
貝沼の思惑は大成功だった訳だけど、それが本当に哀しいです。

薪さんは序盤から割と情緒不安定で、よく泣くし倒れるし寝ぼけて青木と貝沼を混同したりもするしキレ者エリートのはずなのになんか見ていて不安になる。
そんな危うさが薪さんの魅力のひとつでもあるんですがね。
でも雪子とのエレベーターのシーンで「ごめん・・・」と言って号泣するところはちょっと違和感があったな。薪さんならあの場では絶対涙なんか見せず、一人で泣きそうな気がして。

薪さん大好きなんだけど、「自分が薪さんにとって特別な存在になりたい、付き合いたい」みたいな気持ちは不思議と湧かなくて、「薪さんが幸せに暮らしているところを少し遠くから眺めたい」って気持ちになりました。
なんでだろう・・・薪さんが私より軽くて華奢だから?(やだ辛い)
どう考えても脈が無いから?(異性に恋をする薪さんが想像できない)

この人は生への執着が無さ過ぎて死んでしまうんじゃないかと本気でおびえていました。
頼むからもっと自分を大切にしてくれぇぇぇぇ!!!岡部ちゃんと薪さんを見張っててぇぇぇぇ!!!って何度も心の中で叫びましたよ。
天涯孤独、一番大切に思っていた相棒も死んでしまい、悪夢に苦しみ続ける薪さんにとって死は恐れるものじゃないっていうのも理解できて、だからこそ「青木に殺されたい」とほほ笑む薪さんを見て胸が押しつぶされそうなほど切なくなったんですけど。
あのシーンをみた時、「なんやかんやあって薪さんが青木に撃たれて、幸せそうな笑顔を最期に見せて、青木ありがとうとか言ってなんとなくハッピーエンドっぽく終わったりしないよね?」とか思って先を読むのをためらいました。残される者の苦しみを誰より知ってる薪さんが青木にそんな思いをさせるはずないと思いながらも、これまで自己犠牲の塊だった薪さんの最後のわがままが青木に殺されることだったら・・・と一人で悶々としましたよ。
結局薪さんも青木も死なず、未来を感じられる終わりで良かったです。
 
◎岡部について◎
岡部がいなかったら薪さんとっくにダメになってたよね。
第九、そしてこの漫画の良心岡部。
青木もまっすぐないいやつだけどまっすぐ過ぎて視野が狭くて危なっかしいから(すぐ泣くし)、鈴木が死んだあとの第九は薪さんの頭脳と岡部の人間力でもってたんだろうな。
そういえば滝沢もそんな事言ってたっけ。「そのでかい男のフォローでお前は毎日安心して~」ってやつ。
あそこで「た、たのしそう?」って困惑する岡部がかわいくて好きです。

あと10巻で薪さんのモノローグで、

『部下(人)に対する深い思いやり その想像力 機転 勘のするどさ 場を読む力 岡部のもつ総ての美徳が 今はジャマになる』

これ、最高に好きです。この台詞だけで泣きそう。

 

◎滝沢について
滝沢なぁ・・・
物語的には「敵」であり「悪いやつ」でとんでもないことをしているんだけど、根本的なところで薪さんに骨の髄まで心酔してるのが分かるのでどうにも憎み切れません。
そりゃあんな任務を背負ってしまったらおかしくもなるかとも思ってしまうし。好きな子をいじめる小学生みたいにも見えてくるし。過去に色んなことがあって性格がねじ曲がってしまっただけなんだ、みたいな。
むしろ薪さんと四六時中一緒にいて平然としているスーパーノーマル岡部の方が特殊に見えてくる不思議。
でもあの上から目線と高圧的な物言いはやっぱり好きになれん。ああいう上司いるよね。
滝沢が登場してから「こいつの目的は?何をやらかすのか?」とハラハラしっぱなしで緊張感が凄かった。悪意は感じるのに目的が見えないってほんと怖い。エリート集団の第九の中でも薪さんは別格で、いつも部下たちより先を見ているんだけどこの滝沢だけは薪さんと対等に渡り合っているのでこの人が出てくるシーンの緊張感は凄かった。

薪さんに引けをとらない頭脳があって、青木よりも誰よりも薪さんのことを理解していて、しかも心の奥底でどうしようもないほど惹かれているのに、お互いに銃を向けあうような関係性になってしまったところが哀しいですね。

「きれいなお花畑でカエルの死骸見ちゃったみたいな顏やめろ」って台詞は緊迫した場面なのにクスッときました。こういうところが憎めない。


◎雪子さんについて◎
 最初の頃、雪子さんが「女・薪」とか言われてたけど、全然似てないよね?美形で気が強くてはっきりものを言って仕事が出来るっていう共通点はあるけど、精神構造は全然似てないと思う。雪子さんとっても人間らしいですもん。婚期気にしたり、青木のお母さんに気に入られようとフェミニンな洋服買ったり俗物っぽいところもあるし。
私は雪子さんのことはあまり好きにはなれなかったんだけど「私も男になって一緒に戦いたかった」って青木に言うところはぐっときたし、幸せになって欲しいとは思ったので、最後のドレス姿は嬉しかったです。ちゃんと前に進めてよかった。固まる薪さんもかわいかったし。ところで旦那さん、どなたか存じませんけど青木に似てますよね?(笑)

 

◎ざっくり感想◎

大統領暗殺事件でグッと引き込まれて、貝沼事件や天地奈々子の事件で第九の闇に恐れおののき、絹子の話や誘拐事件でドキドキしながらミステリーを楽しみ、8巻の惨殺事件からはもう辛くて辛くて・・・そして12巻は最高でございました。

ここ何日かは12巻だけ何度も読み返してる。

 

◎私の好きなシーン◎薪さん祭りだよ!
・「いいえ だからまだ警視正なんです」7巻

↑大臣にも強気の薪さん!!惚れざるを得ない。
・「えらい!よくやった」
↑何巻だっけ?薪さんが部下を褒めて部下が呆然とするところ。上司が部下を褒めるときに「えらい!」って言います?薪さんのこういうとこかわいい。

・岡部の美徳を語るシーン。
・「誰が甘いって?」

↑説明不要。美人がすごむと怖いんじゃ。
・8巻の飲み会のところ。パーカーとピーコートって、私服意外とラフで可愛いのね~、お酒いける口なのね~、フグ好きなのね~、とプライベートな薪さんが見られて得した気分に。青木はプライベートなんてどうでもいいって言ってたけど読者は気になるんだ。岡部とのフグお好きでしたよね?の会話も良い。薪さんの部下への思いが感じられるところもグッとくる。

・8巻の薪さんの貴重な制服姿。

↑サービスショットありがとうございます。意外とノリノリで着てそうな薪さんかわいい。

・11巻で山本が薪さんについて第九メンバーに語るところ。

↑山本は何気にいい仕事してくれますね。薪さん絶対至上主義の第九の面々にド正論をぶつけるシーンは結構好きです。

・12巻全部

↑特に空港に向かう途中のベンチのシーン。青木を見上げる薪さんの顏が美しすぎて・・・!!!ああもう本当に生きていてくれて、警察を続けてくれてありがとうございます!!という気持ちでいっぱいです。あと最後の「おなかが減るように しあわせも感じるようになる」って・・・。良かったよ・・・本当に。

エピローグのちょっと明るくなった薪さんもとても素敵です。

 
ざっと思いついたところを書いてみたんだけど・・・こんなに深くて切ない話なのに私の好きな場面ミーハーが全開なのが悲しいところです。そして青木に全然思い入れないんだな私。今気づいたわ。
 
◎最後に◎
記事を読み返してみて、なぜか滝沢の分が岡部より長くなってしまったことへの動揺が隠しきれないんですがまあそれは置いといて(笑)
薪さんがこれからもしあわせを感じて生きていくことができますように。素敵な作品に出会えてとてもよかったです!